「◯◯容疑者が逮捕されました」というニュースで、テレビ映像や週刊誌では、なぜか手錠にモザイクがかけられています。
容疑者の顔や実名は公表するのに、なぜか手錠だけはモザイク。手錠をしているのはバレバレなのに、なぜモザイクをかける必要があるのでしょうか?
この記事では、「テレビや週刊誌などで、容疑者の手錠にモザイクがかけられる理由」を解説します。
★結論「まだ有罪が確定していない容疑者の人権を保護するため」
ずばり結論から言ってしまうと、「容疑者が逮捕・連行される段階では、まだ有罪が確定していない。有罪か無罪かは、そのあとの裁判で決まるからである。手錠がかけられた姿が一度でもテレビで流されてしまうと、”ああ、あの手錠の人ね”というイメージが視聴者についてしまう。仮に、そのあと無罪が確定したとしても、”ああ、あの手錠の人ね”というイメージを拭うのが難しいから」です。
日本の報道の歴史をたどると、昔は手錠にモザイクはかけられていなかったんです。
ところが、1980年代に起きた「ロス疑惑」という一連の事件で、テレビ局各社の対応が変わることになりました。
★容疑者への人権侵害とは?
ロス疑惑が世間を騒がせていた当時、テレビや週刊誌などマスコミ各社は、「この容疑者が有罪に違いない!」という姿勢で報道していました。当時の報道では、手錠にモザイクはかけられていませんでした。手錠姿が報道されれば、世間一般は「この容疑者が悪いんだ。犯人に違いない」というイメージをもってしまいますよね。
ところが、いざ裁判をしてみると、ロス疑惑の容疑者が無罪判決を受けるという結果になったのです。
無罪を勝ち取った元容疑者は、反撃に転じます。マスコミ各社に対して人権侵害を理由に裁判を起こしたのです。
元容疑者が主張したのは、「まだ有罪が確定していない状態で、手錠姿をテレビや週刊誌で報道したのは人権侵害だ」という理由でした。
そして、この元容疑者は勝訴しました。
この判例(裁判の過去事例)ができてしまったので、ロス疑惑以後、マスコミ各社は一斉に手錠にモザイクをかけるようになったのです。
★「無罪の推定」の原則
裁判の原則で、「無罪の推定」というものがあります。これは「疑わしきは罰せず」とも言い換えられます。
たしかに、容疑をかけられ逮捕される人には、それ相応の疑わしい理由があることは間違いないでしょうし、おそらく有罪である確率も高いでしょう。
とはいえ、「無罪の推定」の原則がある以上、「有罪か無罪かを決めるのは裁判を通してであり、手錠がかけられて連行されただけでは、有罪は確定していない」のです。
この原則からいえば、事件の容疑者は「この犯行をやったのではないか、という疑いがかけられているだけの人」であり、手錠がかけられているからといって、「犯人」とか「罪人」などとは言ってはいけない、ということになります。
何事も、先入観をもたず、公正な目で見たいものですね。