以前から読みたかった小説。
ドストエフスキーの代表作『罪と罰』を読みました。
かなり文量があるため、読み終わるのに50時間ほどかかりました…。
この記事では、長編小説『罪と罰』のあらすじをまとめています。
登場人物の関係がひと目でわかる相関図も作りました。また、各章を詳しく解説しているので、この記事を読めば『罪と罰』のストーリーが頭にインプットされます。
この記事を読むだけで読書感想文が書けますよ。
※『罪と罰』のネタバレ記事です。結末を知りたくないかたは読まないでください。
★『罪と罰』の概要
『罪と罰』(つみとばつ)は、ロシアの小説家 ドストエフスキーの代表作のひとつ。
1866年に書かれた小説で、日本語翻訳版はいくつか出版されています。
私が読んだのは、岩波文庫の中村白葉訳版(第一巻~第三巻の三部作)です。ですので、この記事では岩波文庫中村白葉訳版の『罪と罰』について書いていきます。
★簡単なあらすじ
ドストエフスキーの『罪と罰』は、全三巻合計で900ページ以上にもなる長編小説。
あらすじを簡単に説明すると、以下のようになります。
『罪と罰』の簡単なあらすじ
主人公 ラスコーリニコフは、経済的困窮により大学を辞め、下宿先の家賃も払えず、極貧の生活を送っていた。彼は、ある正義感から、金貸しの老婆とその妹を殺害してしまう。最終的には自首するものの、それまでに彼の心理状態は激しく変動する。「正義のためなら人を殺す権利があるか?」「そもそも正義とは何なのか?」哲学的な問いをテーマとした長編小説。
900ページを超える長編小説ですが、テーマ自体はシンプルなのです。
ラスコーリニコフの心理描写以外にも、彼を取り巻く家族や友人のサイドストーリーも多く描かれ、また、それらがあとあと事件に密接に関係してくるといった、ミステリー要素もある小説となっています。
ただ、登場人物が多く、ロシア人のため名前が長くて覚えづらい。
また、翻訳のせいなのか、動作主がわかりにくく、誰のセリフか判断しにくい部分があります。
だから、読むのが非常に疲れます。
そこで私は相関図を作りながら読んでいたのですが、これが物語の把握にすごく役立ったので、次項で紹介しますね。
★『罪と罰』を理解するための相関図
『罪と罰』を理解するための登場人物相関図はこちらです。
↓(画像クリックで拡大)
これ以外にも登場人物はいますが、わかりやすくするために重要な人物以外は削りました。
『罪と罰』の重要登場人物は以下の3名といえるでしょう。
『罪と罰』の重要登場人物
■ラスコーリニコフ(ほかの呼び方⇒ロージャまたはロヂオン・ロマーノヴィッチとも)
⇒主人公。23歳の男性。強い正義感をもつ。超貧乏。
■ドゥーニャ(ほかの呼び方⇒ドゥーネチカまたはアフドーチャ・ロマーノヴナとも)
⇒ラスコーリニコフの妹。美人でモテる。教養あり、性格よし、家族思い。作中の言葉を借りるなら「天使のような女性」。超貧乏。
■ソーニャ(ほかの呼び方⇒ソーネチカまたはソフィヤ・セミョーノヴナとも)
⇒娼婦。殺されたリザヴェータの友人。敬虔なキリスト教徒。偏屈なラスコーリニコフだが、ソーニャだけには心を許し、殺人の罪を打ち明ける。物語の終盤では、お互いに愛し合っている様子。超貧乏。
※この3名は全員超貧乏ですが、これは物語の構成に大きく関係しています。
ポルフィーリイという予審判事も、ラスコーリニコフの犯行を心理面から推理し、解明するという意味では重要人物かもしれません。
★『罪と罰』各章を詳しく解説
『罪と罰』は全6編構成(終編も入れると7編)で、各編がさらにいくつかの章に分かれています。
なので、ここでは全編を章ごとに解説していきます。重要な部分だけをまとめているので、これを読めば『罪と罰』のストーリーはつかめるはずです。
とはいえ、『罪と罰』の醍醐味はラスコーリニコフの心理描写です。それを書いてしまうと、この記事まで膨大な文量になってしまうので、今回は割愛しました。気になるかたは、ぜひ小説を読んでみてくださいね。
※各章のサブタイトルは私が勝手につけたものです。
■第1編 第1章「物語のはじまり。極貧生活を送る主人公」
舞台はロシア、ペテルブルグ。季節は7月初旬の暑い頃。主人公ラスコーリニコフは、貧乏のため学費が払えず、大学を辞めた青年である。狭くてボロい部屋に住み、いつもボロを着て過ごしていた。家賃は払えず、もうずっと滞納してしまっている。
そんな極貧生活の中、彼はある計画を頭の中に描いていた。性悪の金貸し老婆を殺し、金を奪うという強盗計画である。
その計画実行の下見として、老婆のもとへ金を借りに行くラスコーリニコフ。金貸しの老婆は、狭くて暗いアパートの4階に住んでいた。老婆はリザヴェータという義理の妹と二人暮らしだが、リザヴェータはそのとき不在のようだった。
ラスコーリニコフは「近いうちにまた金を借りに来る」と言い残し、下見を無事終える。
■第1編 第2章「ソーニャの父マルメラードフとの出会い」
この計画のためか、ラスコーリニコフはここ1か月ほど、憂鬱な気分に悩まされていた。彼はその気分を晴らすため、場末の飲み屋に足を踏み入れる。そこで、ある酔っ払いオヤジが話しかけてくる。
その酔っ払い男の名は「マルメラードフ」といった。マルメラードフには5人の家族がいた。肺病である妻カテリーナ・イワーノヴナと、娼婦である娘ソーニャと、小さな3人の子どもたちである。貧乏なのに酒を飲んだくれるせいで、マルメラードフは妻から忌み嫌われているという。
その日、マルメラードフは千鳥足になるほど飲んだため、ラスコーリニコフは彼を自宅まで送ってやった。マルメラードフの妻カテリーナ・イワーノヴナが彼らを迎えたが、ラスコーリニコフは礼も言われず、追い出されてしまう。
■第1編 第3章「母からの手紙」
翌日、自分の部屋で目覚めたラスコーリニコフは、母からの手紙を受け取る。その手紙の内容は、ラスコーリニコフの妹ドゥーニャに関する話題がほとんどだった。
手紙によれば、ドゥーニャはごく最近まで、元軍人スヴィドゥリガイロフという男の家で家庭教師をしていたという。スヴィドゥリガイロフという男は、50歳にして女好きの遊び人で、マールファ・ペトローヴナという妻がいる。にもかかわらず、教養ある美人家庭教師ドゥーニャに惚れてしまう。
いろいろあったものの、ドゥーニャはスヴィドゥリガイロフの魔の手を逃れ、ピョートル・ペトローヴィッチという45歳の弁護士と婚約したという。しかし、ラスコーリニコフは気づいていた。手紙の文面から、ピョートル・ペトローヴィッチという男の性格の悪さ、横柄さ、傲慢さが手にとるようにわかったからである。
もうひとつ、その手紙に重要なことが書かれていた。なんと、早ければ来週にも、母とドゥーニャがラスコーリニコフの住むペテルブルグへやってくるというのだ。ラスコーリニコフにとっては、3年ぶりの家族との再会である。ドゥーニャはペテルブルグで結婚するらしい。
■第1編 第4章「ラスコーリニコフの情緒不安定」
母からの手紙を読み終え、ラスコーリニコフは憤慨していた。「おお、かわいい妹ドゥーニャよ。おまえは騙されているよ。このピョートル・ペトローヴィッチという男は悪人に違いない。俺が生きているうちは、こんな結婚は絶対にさせないぞ」と。
精神が不安定なラスコーリニコフは、ふらふらと街へ出ていく。数少ない大学時代の友人、ラズーミヒンに会うためであった。しかしラスコーリニコフは、自分が今なぜラズーミヒンに会おうとしているのか、理由がわかっていなかった。
ラスコーリニコフは、ラズーミヒンの家へ向かう途中、見知らぬ紳士に向かい「おまえはスヴィドゥリガイロフだろう!ここで何をしている!」などと食ってかかった。完全に人違いである。それほどまでに彼の精神は混乱していたのだ。からまれた紳士にとっては、迷惑な話だ。
■第1編 第5章「強盗殺人計画の決行を決意」
友人ラズーミヒンの家へ向かいながら、ラスコーリニコフは考えていた。「いや、やはりまだラズーミヒンのところへ行くべきではない。行くなら強盗をやったあとだ」
ラズーミヒンには今は会わないことにしたラスコーリニコフ。空腹を感じて飛び込んだ居酒屋にて、ウォッカを一杯飲むと、たちまち酔いがまわってきた。自宅へ戻ろうとするが、酔いのため足が重くなり、草むらで眠り込んでしまう。そして、彼は悪夢を見た。馬車の馬を群衆が叩き殺すという奇妙な夢である。
悪夢から汗びっしょりで目覚めたラスコーリニコフは、強く思った。「やはり俺には強盗殺人などできない。とてもじゃないが無理だ。やめよう」と。そして彼は自宅への帰り道をまた歩き始めるのだが…。通りかかった市場で、ある立ち話を聞いてしまう。金貸し老婆と一緒に暮らしている妹リザヴェータが、市場で会話していたのだ。
その会話によれば、リザヴェータは明日の午後7時、所用のため家を不在にするというのである。この会話を聞いた瞬間、ラスコーリニコフの背筋に稲妻が走った。
「明日の午後7時、老婆は完全に一人でいる。こんなチャンスは二度とないだろう。もはややるしかない」と。
※激しい葛藤の中で、ラスコーリニコフが強盗殺人の決行を決意する重要なシーンです。
■第1編 第6章「殺人は正義か?回想と犯行準備」
ラスコーリニコフの回想シーン。金貸し老婆とその妹リザヴェータの境遇について、いつか安料理屋で耳にした会話を思い出す。そこではある大学生が、以下のように話していた。
「世間には、金がないという理由だけで、勉学や事業のチャンスをもてない若者が大勢いる。また一方では、あの金貸し老婆のように、生きているだけで人に迷惑をかけるようなゴミクズ以下の人間がいる。それなら、あの性悪金貸し老婆を殺して金を奪い、その金で大勢の若者を救えば、これは世間にとっては正義ではなかろうか?小さなひとつの犯罪でたくさんの命が救えるなら、それは正義ではなかろうか?」と。
※『罪と罰』の核心でもある哲学的問いです。
回想を終えたラスコーリニコフは、斧を準備し、金貸し老婆の部屋へついにたどり着く。準備に手間取ってしまったため、到着した時刻はすでに午後7時10分を過ぎていた…。
■第1編 第7章「殺害、逃亡成功」
老婆は予想通り部屋に一人でいた。しかし時刻はすでに7時10分を過ぎている。もうすぐリザヴェータが戻ってきてしまう。急がねばならない。ラスコーリニコフは老婆が背を向けた瞬間、隠し持っていた斧で老婆の頭を叩き割り、第一の殺人を犯す。
ところが部屋を物色していたまさにそのとき、リザヴェータが部屋へ戻ってきてしまう。目の前には老婆の死体と、血の海。恐怖のあまり声も出ないリザヴェータ。ラスコーリニコフは、リザヴェータの頭へ、夢中で斧を振り下ろした。頭を割られたリザヴェータは即死。こうして、第二の殺人が犯されたのである。
その直後、老婆への来客があり、見つかりそうになるものの、間一髪で逃亡に成功するラスコーリニコフ。無事、誰にも見つかることなく自宅へ戻った彼は、ぐったりと寝床に横になったのだった…。
■第2編 第1章「警察署からの呼び出し」
犯行翌日、警察署からの呼出状がラスコーリニコフのもとに届く。「もしや犯行がバレたのか?!」そう思いながら覚悟を決めて警察署へ向かう。しかし、呼び出し理由は「家賃不払いに関する督促」だった。「ほっ」と胸をなでおろすラスコーリニコフ。犯行がバレたわけではなかったのである。
支払い督促に関する手続きを終え、警察署を去ろうとするラスコーリニコフ。ところが署内では老婆殺人事件が話題になっており、それを聞いたラスコーリニコフは、心理的ストレスのためからか、気を失ってしまう。
しばらくして目を覚ますが、その際、警察官から「昨日は外出しましたか?」などと質問を受ける。なんとかその場をやりすごしたラスコーリニコフだが、「もしや疑いをかけられたのではないか?」と疑心暗鬼になりながらも、彼は警察署をあとにする。
■第2編 第2章「証拠隠滅と精神混乱」
警察署から自宅へ戻ってきたラスコーリニコフは、「証拠を始末しなくてはいけない」と思い立つ。老婆殺害時に、金目のものをいくつか盗んできていたが、それを自宅に隠しておいたのである。こんなものが部屋にあることがバレれば、犯人だと簡単に特定されてしまう。恐れた彼は、盗品を捨ててしまうか、どこかに隠してしまうことにした。
盗品を部屋から持ち出し、街を歩くラスコーリニコフ。人気のない空き地に、ほどよい隠し場所を見つけた。大きな石の下に、ちょうどいい空間があったのだ。盗品をすべてそこに隠した彼は、ひと安心する。
ラスコーリニコフは、その足で友人ラズーミヒンの家を訪れる。が、ラスコーリニコフは精神状態がおかしく、「働き口はないか?働き口など全然探してはいないが…」などと意味不明なことを口走り、ものの数分でラズーミヒン宅を立ち去ってしまう。
自宅へ戻ったラスコーリニコフは、そこで叫び声のような幻聴を聞く。「俺は気が狂ってしまったのだろうか…」ラスコーリニコフの精神混乱は続く。
■第2編 第3章「35ルーブリ入手。自宅での会話」
ラスコーリニコフは、それから4日間ほど、悪夢と半意識をさまよった。そしてようやく目を覚ましたとき、そこに友人ラズーミヒンと労働組合員がいた。労働組合員は、ラスコーリニコフの母が、彼に送金した35ルーブリを渡しにきたのだ。こうしてラスコーリニコフは、彼にとっては大金である35ルーブリを手に入れる。
※あくまで目安ですが、1ルーブリは現在の感覚だと1,000円ぐらい。1ルーブリ=100カペイカ。
ラスコーリニコフは「自分が寝ているあいだに、何か変わったことはなかったか?」とラズーミヒンに問いかける。ラズーミヒンは「警察署の書記長ザミョートフが来たよ」と告げる。ザミョートフはラスコーリニコフと親密になりたいらしかった。このことに、ラスコーリニコフは「疑われているのではないか?」とまた不安を感じるのである。
ラズーミヒンは、35ルーブリのうち10ルーブリを使い、ラスコーリニコフのために新しい服を買ってくる。ラスコーリニコフは、見るに耐えないボロを着ていたのだ。が、服装など気にしないラスコーリニコフにとっては、いい迷惑である。
嫌がるラスコーリニコフを無理やり着替えさせていると、そこへゾシーモフがやってくる。ゾシーモフはラズーミヒンの友人かつ医者であり、今回のラスコーリニコフの神経症を診ていたのだ。
■第2編 第4章「ラズーミヒンの推理」
ゾシーモフはラスコーリニコフの様子を見て、「状態はよくなっている」と伝える。
会話の流れで、ラズーミヒンはゾシーモフに向かって「老婆殺人事件」についての推理を聞かせる。犯行当日、犯行現場の下の階で働いていたペンキ屋が、容疑者として取り調べを受けていること。ペンキ屋を犯人と断定するには、証拠不十分だということ。真犯人はほかにいるということ。
ラズーミヒンの推理をそばで聞いていたラスコーリニコフは、その推理に異常な反応を見せる…。
■第2編 第5章「ピョートル・ペトローヴィッチとの衝突」
と、そこへピョートル・ペトローヴィッチが訪ねてきた。ラスコーリニコフの妹ドゥーニャの夫になる予定の男である。近くに引っ越してきたので、あいさつに来たようだ。ラスコーリニコフは、ピョートル・ペトローヴィッチと会うのはこれが初めて。しかし、母からの手紙で感じていたとおり、ピョートル・ペトローヴィッチからは人柄の悪さがにじみ出ていた。
ラスコーリニコフはピョートル・ペトローヴィッチに対して「階段から突き落とすぞ!」「帰れ!」などと暴言を浴びせ、敵意をむき出しにする。わずか数分間の会見に終わり、ピョートル・ペトローヴィッチは去ってしまう。
ここで、ラズーミヒンとゾシーモフはあることに気づく。「ラスコーリニコフは、ほかの話題には関心を示さないが、老婆殺人事件の話題にだけは過剰に反応する」ということを…。
■第2編 第6章「犯人は現場へ戻る」
自宅に一人きりになったラスコーリニコフは、今がチャンスとばかりに外出する。ここにいては、またラズーミヒンやゾシーモフのおせっかいを受けることになる。彼は、とにかく一人になりたかったのである。
部屋を出たラスコーリニコフは、ある居酒屋に入る。そこには警察署の書記長ザミョートフがいた。ラスコーリニコフは、彼を挑発するような発言をする。「君たちは犯人を逮捕できない」「僕が老婆を殺したんだとしたら、どうする?」などと言ってのけたのだ。ザミョートフは「ラスコーリニコフは精神不安定のため、虚言を言っているんだろう」と対応するが、彼の頭にはある考えがよぎるのだった…。
そのあと居酒屋を出たラスコーリニコフは、事件現場であるアパートの部屋に来ていた。血はきれいに洗い流され、職人が壁紙を修繕しているところだった。ラスコーリニコフを不審に思った門番は、「あなたは誰ですか?」と問いかける。ラスコーリニコフは堂々と自分の名前を告げ、その場を去った。
■第2編 第7章「酔っ払いの事故死と、家族再会」
事件現場を去り、街を歩いていたラスコーリニコフは、路上に人だかりができているのを見つける。酔っ払いが馬車にひかれ、死にかけていたのだ。見てみると、なんとそれはマルメラードフだった。つい先日、居酒屋で知り合い、家まで送り届けてやった、あの酔っ払いオヤジである。
ラスコーリニコフは、まるで身内であるかのように、マルメラードフに駆け寄った。そして彼を家まで送り届け、医者と牧師を呼ばせた。まもなくマルメラードフは死亡したが、ラスコーリニコフのおかげで、家族が見守る中、死ぬことができたのである。
さらに驚くべきことに、ラスコーリニコフは、そのとき持っていた全財産を、故人の妻カテリーナ・イワーノヴナにあげてしまったのだ。「このお金で、彼を供養してやってくれ」とだけ言い残し、ラスコーリニコフはその場を去った。
途中でラズーミヒンと合流し、自宅へ戻ったラスコーリニコフ。そこでは、母と妹がラスコーリニコフの帰りを待っていたのだった…。
■第3編 第1章「ドゥーニャ、ほとばしる美貌」
ラスコーリニコフたち家族3人の再会は、感動の再会とは言えなかった。なぜなら、ラスコーリニコフが、ドゥーニャの結婚をいきなり否定したからである。ラスコーリニコフはドゥーニャに対して「あいつを選ぶか、俺を選ぶかだ。明日までに、結婚を断る手紙を書け」と言い放つ。
ラスコーリニコフは孤独を望んでおり、それだけ言うと、部屋から全員を追い出してしまった。
ラズーミヒンはドゥーニャたち2人を宿まで送り届け、ラスコーリニコフの状態を逐一報告すると約束する。そしてこの瞬間から、ラズーミヒンはドゥーニャに恋をしてしまっていたのである。
■第3編 第2章「ピョートル・ペトローヴィッチからの手紙」
翌朝、ラズーミヒンはラスコーリニコフの母とドゥーニャに、ここ1年のラスコーリニコフの状況を話して聞かせていた。そこで、ラスコーリニコフの母は、今朝ピョートル・ペトローヴィッチから届いた手紙について相談する。
手紙には、次のように書かれていた。
「私はラスコーリニコフに侮辱されたので、彼には会いたくない。今夜8時、あなたたちの宿へあいさつしに行くが、その際はラスコーリニコフを同席させないこと。もし、ラスコーリニコフが同席していたら、私は即刻帰らせていただく。また、昨晩、ラスコーリニコフはいかがわしい女に25ルーブリという大金を渡しているのを目撃したので、私は驚いている」
この手紙をラスコーリニコフに読ませるべきか?今夜8時の会合をどうするか?これらの件について相談するために、一同はラスコーリニコフの部屋へ向かう。
■第3編 第3章「ラスコーリニコフとドゥーニャの会話」
ラスコーリニコフの部屋を訪れた一同(母、ドゥーニャ、ラズーミヒン)。昨日に比べれば、ラスコーリニコフの具合はすっかりよくなっていた。母と妹に対して、昨晩の行為を詫びるラスコーリニコフ。一同も少しは安心したようである。
ここで母はラスコーリニコフに、ピョートル・ペトローヴィッチからの手紙を読ませる。手紙を読んだラスコーリニコフは、その文面から、ピョートル・ペトローヴィッチの卑劣な人間性をまたしても読み取る。
ラスコーリニコフは次のように言う。
「この手紙には、僕たちの家族仲を悪くするための意図がある。なぜなら、僕が所持金25ルーブリを渡したのは、いかがわしい女ではなく、その母親だからだ。ピョートル・ペトローヴィッチは事実をねじ曲げて書いている」
ドゥーニャは真相を確かめるべく、今夜8時のピョートル・ペトローヴィッチとの会合に、ラスコーリニコフにも同席してほしいと頼んだ。ラスコーリニコフは、「同席する」と返事をする。ドゥーニャはラズーミヒンにも同席を求め、彼もこれに同席することとなった。
■第3編 第4章「ソーニャ登場」
と、そのとき、ラスコーリニコフの部屋へ女性が入ってくる。それは、馬車にひかれて死んだマルメラードフの娘、ソーニャだった。ソーニャは「明日、父の葬儀をやるので、ぜひあなたにも来てほしい」とだけ伝えにきたのである。
ラスコーリニコフは「ぜひ参列させていただく」と返事をして、ソーニャを一同に紹介する。それから少し会話したあと、一同は解散。ラスコーリニコフはラズーミヒンとともに、有能な予審判事ポルフィーリイのところへ向かう。
※ポルフィーリイは、難解な事件を解決したこともある、名探偵のような人物です。
■第3編 第5章「ラスコーリニコフの論文」
ラスコーリニコフとラズーミヒンは、ポルフィーリイのところに到着する。ポルフィーリイは、ラスコーリニコフに非常に興味があるようだった。なぜなら、以前ラスコーリニコフが書いた「犯罪心理に関する論文」を新聞で読み、そのことについて彼と議論したかったからである。
ラスコーリニコフは、その論文の中で以下のような主張をしている。
「人間には、常人と非常人の2種類がある。ほとんどの人は常人であるが、ごくまれに非常人が誕生する。非常人とは、ナポレオンやマホメットなどのように、正義のためなら法をも乗り越え、血が流れることも必要だと考える人種である。非常人は、全人類の救済のためなら、あらゆる障害を乗り越える。非常人は、あらゆる障害を取り除く権利をもつ。場合によっては、邪魔な人間を殺す権利すらもつ」
※ラスコーリニコフは、「一部の天才には、人を殺す権利が認められる」というナポレオン主義(選民思想)に傾倒していたといえるでしょう。
犯罪理論について、ポルフィーリイとしばし議論したラスコーリニコフ。ほどなくしてその場を去る。今夜8時の会合には、ラズーミヒンも同席することになっており、ラズーミヒンを先に会場へ向かわせる。ラスコーリニコフは、少し休むために自宅へ戻った。
部屋で横になって休んでいたラスコーリニコフのもとへ、ある男性が訪ねてくる。それは、かつてドゥーニャが家庭教師をしていた頃、妻子がありながら彼女に言い寄ってきたスヴィドゥリガイロフだった。
■第4編 第1章「スヴィドゥリガイロフの提案」
スヴィドゥリガイロフは、以下の内容をラスコーリニコフに告げた。
- ドゥーニャへの恋心はもう冷めている
- ピョートル・ペトローヴィッチは性悪男なので、結婚するべきでない
- 迷惑をかけたので、お詫びに1万ルーブリをドゥーニャに渡したい
- 以上のことを伝えるために、ドゥーニャに会わせてくれ
ラスコーリニコフは当然「断る!」と突っぱねる。が、「あなたとは仲良くなれそうだ」と意味深な言葉を残し、スヴィドゥリガイロフは去っていく。
■第4編 第2章「婚約破棄」
午後8時。ピョートル・ペトローヴィッチとラスコーリニコフ家との会合が始まった。出席者は、ピョートル・ペトローヴィッチ、ラスコーリニコフ、母、ドゥーニャ、ラズーミヒンの5名である。
ラスコーリニコフとピョートル・ペトローヴィッチを仲直りさせるため、ドゥーニャは二人のあいだに立つ。しかし、ピョートル・ペトローヴィッチの不用意な発言から、仲直りは失敗。それどころか、母とドゥーニャをも怒らせてしまい、結局その場で婚約破棄、「二度と会いたくない」とまでドゥーニャに言われてしまう。
捨て台詞を吐きつつ、ピョートル・ペトローヴィッチは部屋を出ていく。しかし、ピョートル・ペトローヴィッチはまだあきらめていなかった…。
■第4編 第3章「家族との決別」
ピョートル・ペトローヴィッチが去ったあとの部屋で、一同はしばしの会話を楽しんだ。しかし、ラスコーリニコフは突然立ち上がり、「もう会うことはないかもしれない」と言い残し、部屋を出ていく。
ラズーミヒンはラスコーリニコフを追いかけた。追いついたラズーミヒンに、ラスコーリニコフは次のように言う。
「以後、俺には何も聞かないでくれ。母と妹をよろしく頼む」
それから二人は1分間ほど顔を見つめ合った。この1分間で、ラズーミヒンには、ある恐ろしい思いがよぎった。
「わかったろう?今度こそ」とつぶやき、ラスコーリニコフは立ち去った。
ラズーミヒンは、生涯この1分間を忘れなかった。
■第4編 第4章「ソーニャの部屋にて」
ラスコーリニコフはその足で、ソーニャの家まで来た。ソーニャは恥じらいと喜びの気持ちを感じつつ、彼を迎え入れる。壁紙は汚れ、家具もほとんどない貧相な部屋である。ラスコーリニコフの自宅と同じぐらいのボロ家だった。
二人はしばしの会話を交わす。ソーニャがリザヴェータと友人だったこと。リザヴェータから聖書をもらったこと。たまにリザヴェータが部屋に遊びにきていたこと。数日前にリザヴェータが斧で殺され、ソーニャはその葬式に参列したこと。
ラスコーリニコフは、ソーニャに次のように告げて部屋を去った。
「僕はリザヴェータ殺しの犯人を知っている。明日、それを君に教えてやる」
この会話を、ドアの向こうで立ち聞きしている人物がいた。それは、数日前、偶然となりの部屋に引っ越してきていた、スヴィドゥリガイロフだった…。
■第4編 第5章「ポルフィーリイとの対決」
翌日、ラスコーリニコフは予審判事ポルフィーリイのもとを訪れる。金貸し老婆に質入れしていたものを受け取るための手続きをするためである。ポルフィーリイはラスコーリニコフと再び会話ができるのを楽しみにしていたようだ。
ラスコーリニコフは、ポルフィーリイが自分を疑っていると信じていた。「あなたは僕を疑っているのでしょう?」と詰め寄るラスコーリニコフ。しかしポルフィーリイは、「友人として会話を楽しんでいるだけだ」とはぐらかすのだった。
ポルフィーリイの、相手を試すような話し方に、ラスコーリニコフはイライラしていた。我慢できなくなったラスコーリニコフは、大声を張り上げ、半狂乱の精神状態におちいる。「僕を疑っているのなら、はっきりと”疑っている”と言ったらどうだ!逮捕したらどうだ!」などと叫ぶラスコーリニコフ。いつまでも核心に触れないポルフィーリイ。二人の手に汗握るやりとりは続く。
と、そこへ、ある男性が部屋に飛び込んでくる…。
■第4編 第6章「ニコラーイ、虚偽の自白」
部屋へ飛び込んできたのはニコラーイという男だった。彼は事件当日、犯行現場の下の階で働いていたペンキ屋である。ニコラーイは「自分が老婆とリザヴェータを殺した」と自白した。
ニコラーイの自白は、ポルフィーリイとラスコーリニコフにとって、まったく予想外の展開だった。ポルフィーリイはラスコーリニコフを追い詰めていたし、ラスコーリニコフはなにしろ自分が真犯人だし、この男の自白は嘘だということがわかるのだ。
とりあえずラスコーリニコフはその場を去り、ニコラーイが尋問されることになった。
ラスコーリニコフは、ソーニャの父マルメラードフの追悼式へ向かう…。
■第5編 第1章「ピョートル・ペトローヴィッチの慈善」
場面は変わって、ピョートル・ペトローヴィッチの宿泊先にて。彼は、レベジャートニコフという男と同居していた。レベジャートニコフはソーニャと知り合いの、正義感に燃える男である。
ピョートル・ペトローヴィッチは、レベジャートニコフに「ソーニャに話があるので、連れてきてほしい」と依頼する。レベジャートニコフに連れられ、数分後、ソーニャがやってくる。
ピョートル・ペトローヴィッチは、ソーニャの父が亡くなり、母カテリーナ・イワーノヴナも肺病で、一家が極貧だということを知っていた。少しの会話のあと、彼はソーニャに「自由に使ってくれ」と10ルーブリ紙幣を手渡す。ソーニャは驚きつつも、10ルーブリ紙幣を大事に受け取り、部屋を去っていく。
一部始終を見ていたレベジャートニコフは、ピョートル・ペトローヴィッチの慈善行為に感動するのだったが…。
■第5編 第2章「マルメラードフの追悼式」
また場面が変わり、ここはマルメラードフの追悼式会場である。未亡人となったカテリーナ・イワーノヴナは、肺病に苦しみながらも、夫の追悼式(卓を囲んで料理を食べる会)を開催していた。ラスコーリニコフも出席しており、彼のとなりにはソーニャが座っていた。
カテリーナ・イワーノヴナは、肺病だけでなく、神経症(情緒不安定)も患っていた。彼女は出席者の悪口ばかり言って、話に熱が入ってくると、肺病のためゴホゴホと咳をし、血を吐くのである。彼女が出席者と口論し、つかみ合いのケンカになりかけた場面で、一人の男が入ってくる。それはピョートル・ペトローヴィッチだった。
■第5編 第3章「ピョートル・ペトローヴィッチの策略」
ピョートル・ペトローヴィッチは、以下のように言った。
「さきほど、私の部屋から100ルーブリ紙幣が1枚盗まれた。ソーニャが怪しいから、身体検査をさせろ」と。
ソーニャは「私はそんなこと知りません。盗んでいません!」と主張する。が、身体検査を受けたソーニャのポケットから、100ルーブリ紙幣が出てきてしまう。これはピョートル・ペトローヴィッチの策略だった。じつは、さきほど10ルーブリを渡したとき、本人にバレないように100ルーブリ紙幣をソーニャのポケットに押し込んでおいたのだ。
しかしこの状況を打破する男が登場する。一部始終を見ていたレベジャートニコフである。レベジャートニコフは、ピョートル・ペトローヴィッチが100ルーブリ紙幣をソーニャのポケットに忍ばせる場面を目撃していたのだ。さらにラスコーリニコフもソーニャの弁護に加わり、形勢逆転。
こうして、ピョートル・ペトローヴィッチの策略は失敗に終わる。彼はその日のうちに部屋を引き払い、逃げたのだった。
一件落着したものの、ソーニャはひどく動揺しており、会場を飛び出し、自宅へ帰ってしまう。ラスコーリニコフはソーニャを追いかけた。ソーニャに伝えなくてはいけないことがあったからである。
■第5編 第4章「犯行告白とラスコーリニコフの選民思想」
ソーニャの部屋に来たラスコーリニコフは、ついに自身の犯行を告白する。同時に、ラスコーリニコフは自身の選民思想についてソーニャに熱く語る。
※『罪と罰』の中でも非常に重要なシーンです。
ラスコーリニコフの意味深な発言は以下。
「僕はナポレオンになりたかったんだ」
「僕は老婆を殺したのではなくて、永遠に、自分を殺したのだ」
「どんな非道なことでも平気でやってのける人間が、人間の上に立つ者となるのだ。より多くの人間を無視できる者が、立法者となるのだ」
「僕は金のために殺したのではない。ほかのものが欲しくて殺したのだ。自分が常人ではなく、非常人であるという証明が欲しかった」
と、そこへレベジャートニコフが訪ねてくる…。
■第5編 第5章「カテリーナ・イワーノヴナ死亡」
レベジャートニコフが言うには「ソーニャの母カテリーナ・イワーノヴナが発狂した」ということだった。ソーニャはカテリーナ・イワーノヴナのもとへ走り、ラスコーリニコフは自宅へ帰ってしまう。
自宅でしばらく休んだあと、再び街へ繰り出すラスコーリニコフ。ふらふら歩いていると、レベジャートニコフが彼を呼び止める。「発狂したカテリーナ・イワーノヴナが、子どもを連れて大道芸をやり始めた」と。
レベジャートニコフに連れられ歩いていくと、カテリーナ・イワーノヴナと小さな子どもたちが、路上で大道芸をやっていた。彼女は気が狂った様子で、子どもたちに無理やり歌わせたり踊らせたりして、金を稼ごうとしていたのである。と、そのとき、カテリーナ・イワーノヴナは大量の血を吐き、路上に倒れる。ソーニャの部屋に運び込まれるが、ほどなくして肺結核により死亡する。
ここで、ソーニャの部屋のとなり部屋に住んでいるスヴィドゥリガイロフが登場し、ラスコーリニコフに驚愕の事実を伝える。「自分とソーニャの部屋とは壁一枚で仕切られており、会話が丸聞こえ」ということを…。
■第6編 第1章「ラスコーリニコフの葛藤」
数日が経過した。ラスコーリニコフの心理描写。スヴィドゥリガイロフから「ソーニャとの会話が盗み聞きされていた」という衝撃の事実を知らされ、ラスコーリニコフは悩んでいた。ここ数日、彼の精神状態はまたしても病的だったが、これは明らかにスヴィドゥリガイロフのその一言が原因だった。
「スヴィドゥリガイロフと話す必要がある。決着をつけなくてはいけない」
そう決心して、ラスコーリニコフは部屋を出ようとする。と、そこへ予審判事ポルフィーリイがやってくる…。
■第6編 第2章「暴かれた犯行」
予想外にラスコーリニコフの部屋へ現れたポルフィーリイ。彼がここへ来た目的はただひとつ。ラスコーリニコフに「老婆を殺したのはあなただ」と伝えにきたのである。
「老婆を殺したのはペンキ屋じゃない。あなたですよ」と、ポルフィーリイは自信に満ちた表情で言う。動揺するラスコーリニコフは、罪を否定するものの、ポルフィーリイは「いいや、あなたがやったんだ。間違いない」と退ける。
ポルフィーリイは、さらに以下のようなことを言った。
「あと2日ほどは逮捕するのを待ってやる」
「自首しなさい。そのほうが刑が軽くなる」
「もし自殺するなら、遺書を書いてくれ。”私がやりました”という遺書を」
それだけ言い残し、ポルフィーリイはその場を去る。
ポルフィーリイが去ったあと、ラスコーリニコフも急いで部屋を出た。スヴィドゥリガイロフに会うためだった。
■第6編 第3章「ラスコーリニコフの懸念」
スヴィドゥリガイロフに会うために部屋を出たラスコーリニコフ。彼の頭には、ある恐ろしい考えがよぎっていた。
「スヴィドゥリガイロフは、もう熱は冷めたとか言っておきながら、じつはまだドゥーニャのことが好きなのではないか?もしヤツが俺の犯行のことを知っていて、まだドゥーニャのことを好きだとしたら…。これをネタに、ドゥーニャをゆすり、言い寄るのではないか?」
このような考えに悩まされつつ、街を歩くラスコーリニコフ。と、偶然通りかかった料理店の中に、スヴィドゥリガイロフを見つける。向こうもこちらに気づいたようだ。ラスコーリニコフはスヴィドゥリガイロフのとなりに座り、会話を始める。
■第6編 第4章「スヴィドゥリガイロフの女好き」
スヴィドゥリガイロフが話したのは、おもに「自身の女好きという性分」についてである。スヴィドゥリガイロフは以下のような話をした。
「ドゥーニャは非常に美人だった」
「私の女好きは、もはや仕事である」
「私がペテルブルグに出てきたのは、16歳の少女(ドゥーニャではない)と結婚するためである」
これらの話を聞いて、ラスコーリニコフは確信するのだった。
「スヴィドゥリガイロフは、まだドゥーニャのことを狙っている」と。
会話を終えた二人は、店を出て別れた。
■第6編 第5章「スヴィドゥリガイロフの絶望」
ドゥーニャは、手紙で呼び出され、不安を感じつつもスヴィドゥリガイロフの部屋へ来ていた。「兄に関する重要な話がある」と手紙に書いてあったのだ。
スヴィドゥリガイロフは「ラスコーリニコフが老婆殺しの犯人だ」とドゥーニャに伝える。が、ドゥーニャは信じようとしない。スヴィドゥリガイロフは「彼を海外へ逃亡させよう。お金は私がなんとかする。ただし、あなたが私を愛してくれるという条件つきだ」と提案する。
これに対し、ドゥーニャは「愛することはできない」と答え、その場を去る。
スヴィドゥリガイロフは絶望し、ピストルを持って街へ出て行った…。
■第6編 第6章「スヴィドゥリガイロフの自殺」
ドゥーニャにフラれた直後、スヴィドゥリガイロフは街へ繰り出していた。彼は料理店をハシゴし、同席した見知らぬ人におごってまわった。そのあと彼はソーニャに会いに行った。
「自分はアメリカへ行く。この3,000ルーブリを差し上げます。自由に使ってください」と言い残し、スヴィドゥリガイロフはソーニャ宅を去る。大金を受け取ったソーニャは、ただただ感謝するばかりだった。
ソーニャ宅を出たスヴィドゥリガイロフ。今度は、婚約者である16歳少女の家へ向かった。彼は、婚約者に1万5,000ルーブリを託し、「自分は重大な案件のために、ペテルブルグを去らなくてはいけない」と言い残し、その場を去った。
それからボロ宿に一泊したあと、彼は路上でピストル自殺したのである。
■第6編 第7章「家族との別れ」
場面は変わって、ラスコーリニコフは母と妹の宿泊先にやってきた。ドゥーニャは外出中のようで、そこには母しかいなかった。ラスコーリニコフは、母に最後の別れを言う。
「お母さん、僕は自分自身よりも、あなたのことを愛しています。だから、もし僕がどうなろうと、あなたも僕のことを愛していてください。僕はもう行かなければなりません。さようなら」
そう言い残し、ラスコーリニコフは部屋を立ち去る。
自宅へ戻ると、ドゥーニャが彼の帰りを待っていた。ドゥーニャの表情からは、恐怖と悲しみがありありと感じられた。ラスコーリニコフは、一瞬ですべてを悟った。「ああ、妹はすべてを知ったのだな」と。
ラスコーリニコフは、ここでも彼の思想をドゥーニャに語る。
「戦争で罪のない命が奪われるのは許されて、害のある命を奪うことは許されないのか。僕は老婆を殺したが、犯罪だとは思わない。僕に罪はないのに、なぜ懲役刑という罰を受けなくてはいけないのか。僕にとって、10年や20年の懲役刑を受けることは、なんの意味があるのか?」
ドゥーニャには、兄の思想が理解できなかった。
ラスコーリニコフはドゥーニャに最後の別れを告げ、部屋を出るのだった…。
■第6編 第8章「警察署にて自白」
自宅を出たラスコーリニコフは、ソーニャの部屋に来た。自首する前の最後の会話相手として、彼が選んだのはソーニャだったのだ。ラスコーリニコフはソーニャから十字架の首飾りをもらって、部屋を出ていった。
警察署に到着したラスコーリニコフ。顔を真っ青にして、声をしぼり出すように彼は言った。
「あれは僕が…あれは僕が、老婆とその妹リザヴェータを斧で殺して、金や品物を盗ったのです」
■終編 第1章「監獄での生活」
ラスコーリニコフには懲役8年という判決がおりた。非常に寛大な判決である。これには、ラスコーリニコフのそれまでの善行が考慮されたことや、なるべく重い刑罰を希望した潔い態度が功を奏した。
ラスコーリニコフ逮捕後の展開は以下。
- ラズーミヒンとドゥーニャが結婚した
- ラスコーリニコフの母が発狂し、まもなく死亡した
- 母の訃報を受けても、ラスコーリニコフは興味を示さなかった
- ソーニャは監獄のあるシベリアに移住し、ドゥーニャと文通している
- ラスコーリニコフは監獄内で孤立し、嫌われている
- ラスコーリニコフは顔色も悪く、日に日に病気がちになっている
■終編 第2章「愛が生まれた日」
ラスコーリニコフは、作業場でソーニャに会った。二人は手をつないだ。その瞬間、彼の中にはある大きな感情が生まれた。いや、生まれたというより、気づいたというべきか。ソーニャも彼の目に、「それ」を認めた。
「私たちは愛し合っている」
二人のあいだには、愛があった。
~『罪と罰』完~
お疲れさまでした。
以上が、ドストエフスキー『罪と罰』のあらすじです。
重要なエピソードはほぼ完全に網羅できているので、これだけでも読書感想文が書けると思います。
★ラスコーリニコフにとっての「罪」と「罰」とは?
この小説のおもしろさは、ラスコーリニコフにとっての「罪」と「罰」とは、一体なんだったのか?と、読者自身が考える部分にあります。その問いは、「自分にとっての罪とは?」「そもそも、罪とは?」「戦争で人を殺しても逮捕されないのに、なぜ日常生活で人を殺すと逮捕されるのか?」など、いろいろな問いにつなげることができます。
小説『罪と罰』は、考える力をつける小説として、今後も読み継がれていくことでしょう。
昔昔、24歳の頃、当時の彼氏に頂きました。車のなかでカバーのついた文庫を渡されて、さてこれは何でしょう?って。
即答で罪と罰♪って当てました^_^
物欲に満ちたチャラい小娘の私が言い当てた事に少し驚いていたかな。
色々知らないからこそ分厚い上下巻(2冊あったから上下巻だ!って単純に)ときたら罪と罰だ!って、それしか浮かばないだけだけど。
今実家に戻って本の整理をしていたらこの本が出てきて。でも今から読むの面倒だからこのあらすじとっても助かりました。
ありがとう。
まだ中3?くらいの時に誕生日に罪と罰を母がくれました。今ではあまり覚えていなかったのでこれを読んで簡単には思い出すことができました!!ありがとうございます!!
ラスコーリニコフって殺人を犯していても精神的に異常があっても素敵なところがありすぎてどうしても好きになってしまいますよね、ミステリーチックというか…
こんなに分かりやすくまとめていただきありがとうございましたっ!
最近、罪と罰を読み始めました。(2020年4月の末ほどから) このサイトを参考書のように拝見させていただきながら、ドストエフスキーの文学に挑戦しています。
罪と罰はハードな山登りです。道に迷いそうな時は、サイトのあらすじをコンパスのように頼りに読み進めています。感謝に頭が下がる思いです。本当にありがとうございます。完読に向け励みます。